製法
緑茶の製造
緑茶は茶として最も歴史が古く、最初からあるお茶と言うことができます。
基本的には摘んだ葉に熱を加えて揉んで乾燥させたものです。
産地や種類あるいは殺青方法などの製造工程で様々な工夫がなされ、それぞれの特徴を出しています。緑茶は六大茶分類の中では白茶に次いで製造工程が単純化され、主に機械で製造されています。緑茶は不発酵茶で、摘まれた茶葉は摘みとられると直ぐに殺青してしまいますが、生臭さを消して香りをよくするため、攤涼・萎凋の工程に入ります。摘み取った茶葉は放置すると自家酵素の働きにより酸化して褐変してしまいますので、酵素の働きを抑制するために風を送ったりして冷却し、同時に加工しやすいように「しおれさせる」という萎凋の工程に移行して殺青のタイミングをとります。
茶葉の酵素類を加熱によって不活性化するための殺青工程は、蒸気で蒸して加熱する日本茶の製法「蒸青茶」や天日乾燥の「晒青茶」を除いて、基本的には間接加熱を行います。一般的には釜炒り殺青とされています。品質の差は 「揉捻」や 「乾燥」 などの後の工程で違いが大きく出てきます。
白茶の製造
従来芽の小さい種類の茶樹から作られていたものが、次第に大きなものに淘汰されていき、現在では福鼎(ふくてい)大白茶や政和大白茶のような芽だけで作られるようになりました。白茶の製造工程は基本的には萎凋と乾燥だけの2工程です。
摘み取った茶葉は円形の大きな水篩(スイサイ)と呼ばれる竹ざるや平籠、ござ等の上に、茶葉が万遍なく日光に当たるように広げて、水を振りかけてからゆっくり天日と風で乾燥します。さらにそのあと補助的に焙籠(ほいろ)に紙を敷いて弱火(40〜50℃)で乾燥します。
黄茶の製造
緑茶の製造工程に悶黄という工程が加わって、軽い酸化酵素による後発酵や葉緑素の退色によって緑茶とは異なる香味になっているお茶です。黄茶だけにある悶黄という工程は君山銀針では牛皮紙に包んだ茶葉を木箱に入れて初包に48時間、復包に24時間をかけて念入りに行われます。さらに黄茶は原料茶葉の硬さによって「黄大茶」と、柔らかい茶葉を原料とした高級な「黄小茶」に分類されます。
青茶の製造
団茶や釜炒り緑茶の製造工程からお茶の葉にすばらしい香りが潜んでいることを発見し、発酵することによってその香りを生み出せることでできたのです。
直射日光に当てて酵素活性を高める晒青(さいせい)(日光萎凋)、日陰で活性を静める萎凋を涼青(りょうせい)(日陰萎凋)と呼んでいます。萎凋で水分を失って発酵準備ができた茶葉を、発酵室内での作青という発酵工程に移ります。作青で揺青と涼青を繰り返しながら香りを出させる発酵を進めていきます。加水分解酵素で香り成分を切り離して遊離させます。一定の温度下で茶葉を攪拌して香りの発生を促します。攪拌の間静置をすると茶葉から花香が生じます。品種により4時間から12時間くらい発酵させます。
発酵室(青間)の中に花のような香りが漂い始めると、酵素の活性を落とすために熱を加えます。茶葉の酵素活性を抑制する工程で、通常釜の間接加熱で茶葉を炒って炒青を行います。水分が蒸散して柔らかくなり、次の揉捻作業が容易になります。
手工や揉捻機を使って茶葉を揉み、成分を葉の外に染み出させて、茶を淹れる時に容易に旨味や色、香りを出易くさせます。青茶では茶種によって揉み方が異なり、眉形に仕上げる岩茶系と、鉄観音や台湾の凍頂烏龍茶のように珠状に仕上げるものがあります。後者は木綿の袋や布に炒青した茶葉を包んで、大きなボールに絞り上げながら機械を使って包揉(=団揉)と玉解きを数十回繰り返して珠状にします。
工夫紅茶の製造
工夫紅茶の「祁紅(チーホン)」や「滇紅(テンホン)」は一般的な紅茶の製造工程とほぼ同じです。浅くて大きな容器の上部に金網を張った萎凋槽という設備の上に茶葉を一定の厚みに広げ、重量がほぼ半減するまで8〜12時間かけて下部から送風機で風を送って茶葉を萎れさせます。次に洗濯機のスクリューのような凹凸が上下に付いて回転させながら茶葉を揉む機械(揉捻機)にかけます。適度な撚りがかけられ、さらに細胞膜が破壊されて、茶葉内部の様々な成分が滲み出してきます。揉捻を行った後はすばやく発酵室に移して、温度、湿度や時間などの発酵条件を管理しながら発酵させます。発酵後は篩で粒度を合わせてから乾燥させます。
ブロークンスタイルの紅砕茶の場合は、転子製法かCTC製法で行われます。
転子製法ではローターバン揉切、CTC製法ではCTC揉切を行ってから発酵します。CTC:CRUSH、TEAR、CURLの頭文字を取った製法で、回転数の異なるローラーを2つ回転させながら葉を削っていく製法です。
発酵工程は温度・湿度・通気の諸条件によって仕上がりが大きく左右されますので、管理された発酵室を使用します。適度な通気を確保するために発酵棚に通常8cm〜12cmほどの厚さに広げて積まれ、酸素が十分に行き渡るように調整をして発酵を行います。その日の気温や湿度によって異なりますが、温度25℃〜28℃、湿度80%〜90%に管理した発酵室で2〜3時間程発酵させます。最後の乾燥は「毛火」と「足火」の二回に分けて行います。
黒茶の製造
古式製法で自然発酵の生茶と、近代製法で強制発酵の熟茶があります。
一般的な黒茶(散茶タイプ)の製造工程
萎凋(いちょう) → 烘青(こうせい)(殺青) → 初揉(しょじゅう) → 渥堆(あくたい)(菌発酵) → 復揉(ふくじゅう) → 乾燥
炒青緑茶と晒青緑茶を原料とする黒茶の緊圧生茶製造工程
蒸気加熱・過湿 → 揉捻 → 成型 → 自然乾燥・自然発酵 → 熟成
黒茶には散茶(さんちゃ)(ばら茶)と緊圧茶(きんあつちゃ)(固形茶)があり、主として散茶タイプの黒茶は炒青緑茶と晒青緑茶を原料に、それを再加工したもので麹菌などのかび菌を繁殖させて微生物発酵させ、それをさらに揉んで乾燥させたお茶です。
熟茶は3ヶ月前後時々攪拌させながら、微生物発酵をさせます。それが終わると揉んで形を整えて乾燥後貯蔵で熟成させます。できたばかりの物はかび臭が強く、味も角張った感じで飲みにくいので、しばらく貯蔵して慣れさせます。
緊圧茶の普及品は円盤型の餅茶やお椀型の沱茶(トウチャ)です。これらは前出の緑茶類のほかにも烏龍茶などが使用されます。先ず茶葉を蒸して柔らかくして加工しやすくします。次に揉んでから布袋に入れて型に入れプレスで固めます。室内で棚に並べて乾燥します。
花茶(茉莉花茶 )の製造
原料は主として吸香力の強い「烘青緑茶」が使われます。烘青緑茶は揉捻を強くした上によく乾燥してありますから、他にも炒青緑茶も使われますが烘青緑茶の方がより強く着香効果が出てきます。花茶はすでに出来上がっている茶葉に後から花の香りを着けたものです。代表的な茉莉花(ジャスミン)茶の場合ですと、先ず烘青緑茶の毛茶(荒茶)を茎や挟雑物を取り除いて、香りをより吸い込みやすくするために一度乾燥機にかけます。それから摘み取った半開きの茉莉花を通気の良い場所に広げ、開花を待ちます。
その間に固い蕾や挟雑物を取り除きます。
開いた花を摘むのではなく、摘んだ当日の夜に開花するように時期を調節します。茶葉と花を交互に摘み重ねてゆきます。4〜5時間経過すると花が発酵して温度が上がってきますので、広げて冷ますと同時にかき混ぜて香り付けが均等になるようにします。繰り返し堆積撹拌を行い、翌朝花をフルイで取り除きます。花の水分で湿った茶葉を軽く乾燥させます。
最後に提花と呼ばれる出荷直前の着香技法があります。
少量の生花を箱詰め封入する際に、そのまま混ぜ込んでフレッシュな良い香りを再度着けることによって、梱包を解いたときに強い芳香を放つためです。
武夷岩茶の製造
晒青(さいせい) (日光萎凋) → 涼青(りょうせい)(日陰萎凋・攤涼) → 作青(さくせい)(揺青(ようせい)・ 攤青(たんせい) ) → 炒青(しょうせい) → 初揉(しょじゅう) → 復炒(ふくしょう) → 復揉 → 水焙(すいばい)毛火(もうか) → 揚剔(ようちゃく) → 足火(そくか)
武夷岩茶は他の烏龍茶と異なる独特の工程をいくつか持ち、これらによって岩茶の風味が作り出されます。その最も代表的な工程は揚剔という堆積の工程で、完全乾燥の前に5〜6時間茶葉を堆積して発酵を継続させ、茶葉全体を茶褐色に変えるのです。
これが鳳鳳単欉(ほうおうたんそう)等の水仙や武夷岩茶が他の烏龍茶に比べて発酵が進んでいる理由です。さらに仕上げる時の烘焙温度が、通常の烏龍茶より高くて長時間であるために茶葉を一層色付かせ、焙じ茶に似た香ばしい香りを付与している理由です。
茶摘みの後、直ちに晒青を行うのが「岩茶」の特徴で、水篩という竹のざるに入れて太陽に晒しますが、その日の陽光の強さにより時間を調整(20〜120分程度)します。この段階で茶葉の酵素活性を高めたり、若干の重量を減少させます。それを日陰に移して熱気を取るのが涼青で、青臭さが消え、軽く萎凋の香りが立ち始めます。
次に発酵室(青間)にいれて室温と湿度を保ちながら、回転や攪拌をする揺青と静置(攤青)を交互に8〜12時間繰り返して発酵を進めるのが作青の工程です。作青の間に花の香りが程よく発生してきたら、茶葉を(手工の場合一回に付き約1〜1.5kgずつ、180〜220℃に熱した釜で炒る) 炒青して大部分の酵素を止めます。
次に初揉と呼ばれる最初の揉捻を行い、これが終わると茶葉は再び釜に戻されて復炒という2度目の釜炒りが施されます。それが終わると乾燥となりますが、1回目の乾燥は水焙(毛火)と呼ばれ100℃近くの強火で水分量30%程度にまで落とします。それを一旦冷まして茶葉の挟雑物を取り除いた後、5〜6時間堆積して発酵を継続させ(揚剔)、最後に約60℃で2〜5時間低温乾燥(足火)を行って毛茶(荒茶)にします。
大規模な工場では揺青機、揉捻機や乾燥機を用いて大量に処理します。
台湾茶の製造
烏龍茶は香檳烏龍茶や白毛茶を除いて、全て葉の新芽が開いて成熟した大きな葉だけを使う「開面採(かいめんさい)」という特殊な摘み方をします。
この場合ミル芽のような未開の新芽は通常の製法では喪失してしまいますし、収量の減少のために敬遠されます。半発酵で作った茶は緑茶のうまみ成分のアミノ酸に相当する重合ポリフェノールを生成するため、芽でない部位のほうが適しています。
台湾で大きく発展した茶芸の手法も、基本形は福建省や広東省の工夫茶を土台にしており、様々な創意工夫が加えられて、美しく独創的なパフォーマンスが愛好家達を楽しませています。期の包種茶は安溪産の烏龍茶にジャスミンで香りをつけてから、四角い紙に包んで台湾へ輸出していたことから名が付いたものです。
福建省でジャスミンのような香りの強い花を一緒に包んで、厦門(アモイ)などの港から世界各地に輸出したことが知られています。